『地域づくりキーワードBOOKコミュニティビジネス』に
特集10事例の一つとして、コミュニティNETひたちが紹介されました。以下に所収内容をご紹介します。


地域づくり
キーワードBOOK

コミュニティビジネス

編集:総務省自治行政局地域振興課
協力:財団法人 地域活性化センター

パソコン教室などでシニア世代のセカンドライフの場を提供

特定非営利活動法人
コミュニティNETひたち

パソコン教室には若者の姿も
パソコン教室には若者の姿も
●代表者: 内田芳勲
●住 所:



〒316−0003
茨城県日立市多賀町1−12−10
TEL0294-33-0015
FAX0294-33-0015
〈E-mail〉master@cnet-hitachi.com
〈URL〉http://www.cnet-hitachi.com
●活動地域: 茨城県北部
●設立時期: 平成13年12月
●構成員数: 150人(無償職員5人、会員145人)
●事業規模: 5,719千円
(事業収入4,120千円、
 会費1,037千円、
 寄付金562千円)

NPO法人コミュニティNETひたちは、IT技術の専門知識を活かしてシニア世代のパソコン教室を開くほか、小学校情報教育サポートなどで地域の情報リテラシー向上に寄与。商店会との連携で地域活性化に努めている。


事業開始に至った背景・経緯 セカンドライフの自己実現の場を提供
 高齢化社会の進展は、介護・看護を必要とする高齢者が増大する一方で、それらを必要としない元気な高齢者の生きがい対策もまた大きな課題となっている。NPO法人「コミュニティNETひたち」も、定年を迎えたシニアや子育てを終えた女性が「できることをする」自己実現のための「溜まり場」「プラットホーム」、すなわち高齢化社会において充実した生涯ステージを提供する場として設立された。

 「定年後、家でゴロゴロして粗大ごみと言われるのではなく、セカンドライフを楽しむ場をつくりたいというのが最初の出発点です。

 シニアの方々は幅広い豊富なノウハウやキャリアを持ち、生活や文化に関する深い経験・知識も持っています。単に、セカンドライフで個人の趣味を活かすだけでなく、そうした知的ノウハウ、キャリアを活かし地域振興、地方自治体が提供する公共サービスを側面から支援していこうと、NPO法人を設立してコミュニティビジネスを始めることにしたのです」(内田芳勲代表理事)。


パソコン設定作業

導入したパソコンの設定作業
 「コミュニティNETひたち」の定款には、設立の趣旨として次のような文章がある。「この法人は一般市民に対して、情報事業習得の促進や情報技術を活用した生活情報の提供、また、少子高齢化への対応、学枚教育の支援などを行うことにより、多くの人々の生涯学習の促進に寄与し、地域の人々が生き生き快適に暮らせる社会を形成することを目的とする」。

 茨城県日立市は関東平野の北端に位置し、県北部の中核都市である。名前からもわかるように日立製作所の発祥の地であり、現在も市内に同社の工場などが多数立地し、市内在住の従業員OBも多い。彼らはIT技術についての専門家であり、「情報事業習得の促進や情報技術を活用した生活情報の提供」にもってこいの存在だったのである。ただし、そうしたキャリアを持つ人と市民とを結びつける架け橋がなく、市民のインターネット利用率も低かった。茨城県内では、つくば学園都市がある県南部では市民にIT技術を普及させる研修会なども多く開かれ、また独自のホームページを持つ市町村が多くその質も高かった。

 そのため、県北部ではパソコンの研修会やITを使った情報提供の需要が高く、ビジネスとしても成立する可能性が高かったのである。
また、地域を日立市内に限るのではなく、かつての「常陸国」をイメージして法人名も「コミュニティNETひたち」とし、県北部全体の活性化に寄与することを目的としているのである。

取組み事業の概要 IT技術からまちづくりまで広範囲な活動
■お年寄りにもわかりやすいパソコン教室
 同法人は、日立製作所のOBによるIT技術の普及が活動の中心となるが、それだけにとどまらず地方自治体や文化協会などの公的組織や地元商店会などと連携を図り、次のような活動を行っている。

(1)教育
 ・パソコン教室
 ・パソコン相談
 ・ホームページ作成
 ・小学校情報教育サポート

 パソコン教室は、JA日立市多賀の店舗2階に開設された同法人の事務所で行う独自の教室と、自治体が主催する市民向け、事業所向けの教室がある。事務所にはパソコン10台とプロジェクターが設置され、火曜から金曜日にパソコン入門、ワード・エクセル入門講座などが開かれている。「一般市民にも開放しているが、時間当たりの受講科750円が同法人の会員(年会費6千円)になると500円になる特典があり、受講者のほとんどが会員になっている。講座だけではわからなかったことは随時相談を受け付け、また体が不自由で来校できない人のために出張相談も行っている。

 ホームページは作成とともに企画運営も受託している。これまでに、多賀商店会の約20店舗のホームページを作成した。

 小学校の情報教育のサポートは、平成15年度に8校で試験的に始められ、現在全小学枚23校で「教師が主となって行う授業におけるコンピュータ操作や使用ソフトの操作指導の支援」「教職員の情報機器やソフト活用に関する技術的な支援」「学枚のホームページ作成への協力や定期的な更新に関する支援」を実施している。

■商店街の活性化にも尽力
(2)まちづくり
 ・高校生の商店体験支援
 ・地域商店会行事への協賛
 ・市民よろず相談
パソコン教室

初歩の初歩からわかりやすく説明するのが
パソコン教室の特徴
小学校サポート

小学校へのサポートは
児童、教師、保護者から喜ばれている

 高校生の商店体験支援は、市の「ヤングあきんど育成支援事業」の店舗管理人を受託したもので、事務所近くの空き店舗を利用し1階は高校生30人が古着や雑貨、2階は大学生が喫茶店を金、土、日曜日に経営している。
 同法人は鍵の管理や様々な相談に乗っている。

■Web上で市民の文芸作品を公開
(3)学術・文化・芸術・スポーツ
 「市民まちかど情報・展示館」は、市の「まちの起業家創出支援事業」の事業提案に応募し、コミュニティビジネス新親事業立ち上げ補助を受けて始められた。Web上に市民の文芸作品(絵画、彫刻、工芸、書道、写真、園芸など)を展示し、いつでも・だれでも・どこででも鑑賞できる「インターネット美術館」を開設した。

地域との連携 「開かれた学校」を実践
■市との協働でデジタル・デバイドを是正

 同法人は、小学校の情報教育サポートや「市民まちかど情報・展示館」など、日立市から委託を受けた事業が活動の一つの柱になっている。これは積極的に事業提案する同法人の「営業活動」によるところも大きいが、日立市の事情によるところも大きい。

 同市にはいくつかのNPO法人があるが、専門的なIT技術のノウハウを駆使し、高齢者の情報リテラシー(情報を使いこなす能力)向上につながる活動を行っているNPOが同法人しかないのである。デジタル・デバイド(パソコンなどの情報技術を使う人と使わない人との間に生じる社会的・経済的な格差)の是正は各自治体にとって緊急の課題でもあるが、自治体主催のパソコン教室は講師が若年層であるためどうしてもシニア世代が参加しにくい雰囲気がある。同法人は、同じ世代が講師になることでより多くのシニア世代が参加しやすい場を提供しており、市内のシニア世代のインターネット利用率を大きく向上させることに寄与している。さらに、その他の自治体に対しても、広報担当の講習会で自治体のホームページのあり方について講演を行い、自治体のホームページの質の向上に大きく貢献した。

 また、小学校の情報教育サポートは、事務所の最寄りの小学校で始めたのが非常に好評で、モデル事業、全校実施へとつながったが、単純なサポートだけでなく社会経験が豊富なシニア世代が授業に参加することで、子どもたちだけでなく教職員(当然同法人の会員より年が若い)に対しても大きな影響を与えた。
 教育現場を地域に開こうとする近年の動きの中で、これも大きな地域貢献といえるのである。

■店舗経営のパソコン管理を指導

 地域との連携でもっとも大きな柱は地元商店会との連携である。常陸多賀連合商店会は、JA日立市多賀、日立製作所情報制御システム事業部とともに同法人の協賛会員であり、設立当初から強い連携関係にあった。

 「ヤングあきんど育成支援事業」の店舗管理人を引き受けたことや、店のホームページを作成する事業のほか、昼間は仕事で忙しい店主を対象に午後7時30分〜9時までのパソコン講座を開き、初級・中級向けの文書作成や表計算について講義。パソコンを利用した経理や宣伝について指導している。また、毎年行われる「ひたち大道芸」や「多賀夏祭り」には同法人も出店し、商店会との連携を深めている。

事業の成果・実績 会員数と受託事業の拡大で財政が安定化
■平成15年度から黒字に転換

 同法人の会員数は145人にまで拡大し、また受託事業が増えたことから安定した財政状況となり、平成15年度から黒字に転換した。15年度の収入571万9千円の内訳は、事業収入412万円、会費が103万7千円、寄付金などが56万2千円となっている。支出522万9千円の内訳は、人件費247万5千円、事業経費137万5千円、管理費137万9千円。

 平成16年度(4月〜12月)パソコン教室は、同法人主催のものが50講座(受講者数187人)、市主催で視聴覚センターで開かれた一般市民向け講座が8講座(同144人)、日立地区産業支援センターで開かれた事業者向け講座が2講座(同12人)、出張講座も行われている。小学校情報教室サポートでは、モデル校から全校(23校)での実施になったことで、パソコンを教える技術を持つメンバーもその数だけ拡大。専用のメーリングリストを使い、質の向上に努めている。

 市民よろず相談は、15年度実績で24人の相談に応じた。インターネット美術館は、日立市芸術祭第40回市展入選作品などから制作者の承諾を得て実費1,000円で公開し、現在172点がWeb上に掲載されている。

■活動が社会的にも認知

 また、活動の具体的な実績として次のような例もある。子育てを終えた50代の女性で、ホームヘルパーの資格を持っていても就職が難しかったが、同法人のパソコン教室で技術を習得。パソコンを使って自分で履歴書を書いて面接に行ったところ、その意欲を買われて合格することができた。

 また、学校卒業後、就職していなかった会員の息子さんが自ら会員となってインターネット美術館立ち上げに活躍。その活動が面接の際に一つのキャリアとして評価され、就職できたという例もある。同法人の活動が社会的に認知された事例といえるだろう。

現在の課題・工夫している点 主体的に関わる会員の拡大が課題
 同法人は、正会員・準会員の区別を設けず、やりたい事業があれば希望者が手を上げるワーキング・グループ制をとっている。そのため、実際に事業に関わる会員とただパソコン教室に通っているだけの会員との間に意識のズレが生じやすい。また、これまでの活動の中心がIT技術をもとにした事業が多かったため、その技術の有無が活動への参加の浅さ深さを決めることが多かった。

 「もう一度、法人設立の趣旨を確認して、主体的に活動に関わる会員を増やしていくことが課題です。そのためには、IT技術を使わない事業、たとえば「ヤングあきんど育成支援事業」の店舗管理人のような、女性の会員やIT技術を持っていない会員も参加できる活動を今後増やしていく必要があります。

 また、会員同士の交流を深めるため、お茶会やゴルフ、旅行などのクラブ活動も、今後活発にやっていきたい。会員を対象にしたメーリングリストの加入率は現在60%程度ですが、これもさらに上昇させたい」(内田芳勲代表理事)。

今後の展望 「市民まちかど情報館」も開始
 短中期的展望としては、「市民まちかど情報・展示館」のうち情報館の充実がある。これは、Web上で市民生活に有用な情報を提供するもので、たとえばボランティアで高齢者の付き添いなどのサービスを提供できる人とそのサービスを希望する人をマッチングする。
 すでに需要・供給の情報を収集し、平成16年度中に公開する予定になっている(平成16年12月現在)。

 長期的展望としては、高齢者の移送サービスの提供がある。当初、法人設立の際に事業の一つとしで掲げていたが、タクシー業界との競合や事故が発生した場合の補償問題などから計画通りには進んでいない。しかし、行政との連携や関連する法改正を待って、ぜひ実現したいとしている。

カウッパの様子

高校生が経営する店もなかなか盛況

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